文アルコラボ「没後30年 井伏鱒二展 アチラコチラデブンガクカタル(神奈川近代文学館)※現在は終了」(2023年10月)
間が空いてしまいましたが、旅の記録です。
去る2023年10月末、神奈川近代文学館が文アルとコラボするというので見に行きました。
特別展「没後30年 井伏鱒二展 アチラコチラデブンガクカタル」(会期:2023年9月30日(土)~11月26日(日)
https://www.kanabun.or.jp/exhibition/18737/
神奈川近代文学館さんといえば、今まで文スト*1とコラボされているのは知っていたのですが、今回、文アルとコラボするのは2回目*2だそうです。
↓作者が3年前に行った「新青年」展
(文豪乱歩も文ストも好きなので。この時、さいたま文学館の方でも文アルコラボ「没後55年記念 江戸川乱歩と猟奇耽異」があったので両方巡りました。)
また、見に行ったのにはもう一つ理由があり
今年、実践女子大学の研究グループが発見した、太宰治の新資料(書簡)が展示されると聞き、「これは行かねば!」と思い立ち行ってきました。
記録の前に:井伏鱒二とは?(ざっくり)
・代表作:「山椒魚」「厄除け詩集」「黒い雨」(山椒魚は悲しんだ!、サヨナラダケガ人生ダというフレーズだったら、教科書などで見たことがあるor聞き覚えある人も多いのでは)「黒い雨」は原爆についてのノンフィクション小説。
・ドリトル先生の翻訳などもしている人。
・太宰治の師匠。太宰の面倒を見ていた。
展示について(特に印象に残った展示など)
展示の構成は、最初の展示室で「幼少期〜作家になるまで」「作品の紹介」「井伏にまつわる人々・作家①」、もう一つの展示室で「杉並での暮らし」「趣味・好きだったもの」「井伏にまつわる人々・作家②」が紹介されていました。
以下、印象に残った箇所を一部。(順不同)
(冒頭)
編集委員の方から井伏鱒二への手紙が展示。生前会うことが叶わなかった井伏鱒二への熱い思いが綴られていました。
(中学時代)
森鴎外が新聞に連載していた「伊沢蘭軒」について、朽木三助という老人のふりをして「ここの内容が史実と違う!」という悪戯の手紙を送った。理由は、森鴎外の手紙が欲しかったから。そしてなんと森鴎外自身から反論の手紙をもらった。
ただ、慌てた井伏は「その老人は亡くなりました」と返信。
ちなみに、この井伏が送った書簡は、森鴎外の伊沢蘭軒資料の中に綴じ込まれている。
後年、井伏はこの件について「森鴎外に詫びる件」という文章で悪戯のことを告白している(だいぶとんでもない悪戯してますね…)
・早稲田に入学するも、教授と衝突して休学。復学の希望を出すも、その教授が反対して退学に。
・また、大学の親友、青木南八もこの頃自殺してしまう。井伏は、彼からもらった手紙を形見として戦時中も持ち歩いていた。
(作品など)
・漢訳
「サヨナラダケガ〜」の文が有名ですが、他にも様々な漢詩を翻訳している。
・黒い雨
実は被爆者の方(重松静馬)の日記を元に書かれた。二人の交流の資料(書簡など)も展示されていた。
(翻訳のきっかけ)元々原書を取り寄せたのは石井桃子。彼女が近所に住んでいた井伏に依頼した。
(太宰との交流について)
・太宰から「会ってくれないと自殺する」という手紙が届いたところから交流開始。
・井伏が、太宰と井伏の長男が将棋を指している絵を描いたとき、誤って太宰の鼻に赤いインクが付いてしまい恨まれた。
・井伏→佐藤春夫に宛てた手紙
太宰の入院中の様子について
太宰が「騙された!」と怒っているらしいので、私(井伏)は当分太宰に会いに行かない、面と向かうと喧嘩したくなる、と書簡に書かれていた。
(ただ近くにあった別の資料で、入院させた経緯は「最後にもう一度注射打たせてやるから!」みたいなことを太宰に言って病院に連れて行く→入院させた感じだったとか?)
・太宰が死んだとき、葬式で井伏は声を上げて泣いた。弔辞では、「太宰は絶えず悩みを生み出して自分で苦しんでいた人」と述べた。
・将棋が好きだった井伏は、太宰とも指した。太宰は、自分が負けそうになると将棋自体を全否定する発言をし、自分が勝ちそうだったらとても喜んだそうな。(可愛い)
(その他)
・生前の映像も流れていました。(近くの小学校が、周年記念の一環で井伏にインタビューするため自宅を訪問)
以上の箇所が印象に残った&好きな場所でした。
神奈川近代文学館さんのここがいいなと思ったところ
・展示されている資料が豊富。
3年前に行った時もそうだったのですが、展示の量がボリュームたっぷりなので、2〜3時間くらい滞在していました。滞在できちゃうんですよ、本当に。
・展示はどこから見てもいい
会場案内図に「決まった順路はありません。自由に散策しながらお楽しみください」書いてありましたが、確かにどこから見ても見やすい展示でした。
というのも、神奈川近代文学館さんの企画展の部屋は、上から見ると円形のような形をしており、今回の資料は壁面と、室内に放射状に置かれたガラスケースに展示されていました。
施設概要(神奈川近代文学館)
https://www.kanabun.or.jp/guidance/facility-guidance/
展示内容は(一部例外もありますが)入り口から壁面に沿って反時計回りに歩くと時代が進むのですが、主に壁面では作品の展示、室内に置かれたガラスケースの方では、関わりのあった人物の展示、という風になっていました。
そのため、壁面に沿って順に見るのもよし、壁面→関連作家の展示を交互に見るのもよしと、やや人が増えた時でも、「あ、じゃあこっち見よう」がしやすかったです。
文アルコラボ
企画展の入り口に、左から佐藤春夫、井伏鱒二、太宰治のパネルが立っていました。師弟関係のある三人ですね。
また、展示にまつわるクイズ企画もあり、回答してポストカードも無事ゲットしました。
回答後、用紙の裏面にスタンプ押してもらったのですが、ゲーム内のモチーフである歯車のデザインになっていて嬉しかったです。
終わりに
本展のチケットの裏面によると、今月2日から来年1月21日まで「芥川龍之介から中島敦まで」の展示を行なっているそうです。(うわ見たい…)
常設展「文学の森へ 神奈川と作家たち」
https://www.kanabun.or.jp/exhibition/328/
そしてさらに!来年の2024年2月6日(火)~3月24日(日)に、その続編で「第3部 太宰治、三島由紀夫から現代まで」が開催され、今度は文ストコラボをするそうです。
(しかも太宰と安吾の名前が太字で強調されている)
無頼派好きなのでめちゃめちゃ行きたいですね…!(行ける…行けるか…?)
「文豪ストレイドッグス」とのコラボ企画を実施します!
https://www.kanabun.or.jp/news/19323/
(補足)ちなみに、神奈川近代文学館さんのある「港の見える丘公園」、文スト作中のモデルになった場所でもあります。探偵社とポートマフィアが密談する時ですね。近くにイングリッシュガーデンもあります。
こういったコラボ、若い人が文学館に行くきっかけになってとても嬉しいので、ぜひ今後も続いてほしいです。そして、また文アルのコラボもしてほしいと思います…!
企画展、またコラボありがとうございました。
(追記:編集記録)
・神奈川近代文学さんとの文アルコラボは初めてではなく2回目でした。公開時、誤った情報を掲載してしまい申し訳ございません。(2023年12月13日修正)